『約束』

この場所の更新がなかなかできないままに月日は流れ
気が付けば暦は6月になり
こちら東京は梅雨入りをした模様との発表があった今日この頃です。

このような場所を見てくれている人はいないかもしれませんが、
久しぶりの更新でございます。

それは20数年ほど前、私が20代後半のことです。
何の後ろ盾も無くすべてを0から立ち上げなくてはならい、
そんな独立し買取という未知の世界へと足を踏み入れ右往左往していた頃・・・
以前務めていたお店の番頭として参加させていただいていた古物市場がございました。
独立後まだ店舗も無く、小売りも限られた場所であったため小売りが出来ない買取品を売らせていただいたのです。
駆け出しの人間が買い集めた品物です、資金も知識もまだまだの人間が集めることが出来た品、、、
現在の私から見れば皆様に喜んで買っていただけるような品々ではなかったと思います。
さて、そんな品々を持込売らせていただくにあたり会長のTさんに
「こんな品物ですがよろしくお願いします」
とご挨拶しましたら、
「キタさん買出してきたの?うん、わかったよ!」
と。
そして、セリが始まり暫し後の私の品物の番。
振りの方がセリにかけてくれるのですが やはり買い手さんの反応は今ひとつ、、、
しばしの沈黙、、、沢山の買い手さんがいるのに沈黙するあの時間、、、

あぁ、、ダメかぁ、、、と思ったとき

「・・・・円!」

沈黙を破る声
はっ!として、
その声の主がT会長であることに気がつき
とっさに口から出た「Tさん大丈夫ですか?」との問いに
うなずき笑うTさん

私といえば、
ありがたい、申し訳が無い、不甲斐ない、この世界でやっていけるのだろうか、、、
そんなことが頭の中でぐるぐると回り続けてました。
会が終わり改めてTさんに申し訳ありませんという私に
「買い出しは大変だろうけど、まぁ頑張って」
と笑うTさん。

それから年月は流れ、今でも右往左往には変わりございませんが
沢山の人と出会い、また沢山の経験をさせていただき知識もまだまだですがつけさせていただきました、
そして、この業界でも端の方かもしれませんが何とか生きていけるようになってもまいりました。
6年ほど前よりTさんとお酒を飲む機会もいただき
大先輩とお酒を飲む日が来るなんて!と恐縮しながら
「駆け出しの頃はお世話になりました」という私に
「そうか?そんなことあったか?」と嘯きただただニコニコと笑うTさんに
いつか必ず何かの形でお返しをしなくてはと思ったのでした。
そのあとも何度か飲みに誘っていただき楽しい夜のお供をさせていただきました。
そんなTさんが体調を崩したという話を聞いたのは一昨年のこと
それでも「また飲みたいね」と仰っていただくたび
「体調が戻りましたら行きましょう」と、、、
そして去年、
コロナがやってきてしまいました、、、
ネット経由のやり取りで「また楽しいお酒が飲みたいね」とTさん。
コロナのこともありますしTさんの体調も今ひとつのようですし、
この疫病が落ち着いたら必ず行きましょう!と。

そして、、、

そんなTさんが2月の終わりにお亡くなりになった。

雨の中向かったお通夜の日、
T さんの息子さんから「親父の顔を見てやってよ」と仰っていただき
久しぶりの対面となりました。
記憶しているのは大柄なTさん、
目の前に横たわるのは 痩せて小さくなったTさん

わかってはいたのです、、、このような経験は何度もしてますし
身体を患った人の最後の姿はわかってはいたのです、、、
なのに、、、

50も過ぎたのに人前でボロボロ泣いてしまった。
必死であふれでる涙を堪え
「ありがとうございました」
というのが精いっぱいで、、、

お通夜の日は雨だったのに
嘘のように晴れた日の葬儀も滞りなく終わり
ひとり東京への帰り道

運転しながら

約束、、、
Tさん、飲みに行く約束ですが
この世の先に天国というところがあるのなら
私がそちらへ行きましたら果たさせていただきます。
もう少し先になりそうですが、、、
まぁビールでも飲みながら
今しばらくお待ちください。

そんなことを考えながら東京へと帰りました。

 

令和三年 六月某日 店主 拝